ホルモン治療において、本来の生物的性とは異なる性ホルモンを注射することは、あまり想定されていません。

生物学的女性に対して、男性ホルモン治療する場面でFTM以外の治療では、女性ホルモンが関与する乳がんでは、ときに女性ホルモン分泌を抑えるために、男性ホルモンで治療することがあるくらいです。

FTMのひとたちは当然男性化を望むため、男性ホルモンを投与し、男性ホルモンを一般男性と同じ生理学的血中の男性ホルモン濃度を維持することが目的になります。

男性ホルモンによる症状

基本的に、男性ホルモンによる症状は、男性の思春期(二次性徴)に似た症状を呈します。FTMの場合は、男性化=思春期の症状と言えるでしょう。

顔貌の男性化
骨格は変わりませんが、男らしい雰囲気がでます。
声の変化
声が低くなるのは、3-12カ月で始まり、1-2年で完成。もとに戻りません。
毛髪の薄毛
家族性によるところが大きく、早いひとだと治療開始後1年以内に起こることもあります。一般男性と同様にフィナステリドの内服は有効
髭(ひげ)
一般男性と同じように、体質的に髭が濃い人、薄い人がいるように、男性ホルモンを投与しているから必ず髭が濃くなるということはありません。遺伝的要素が強いです。
ニキビ
ホルモン治療開始後ニキビがひどくなるひともいますが、次第に落ち着いてきます。ニキビが増悪しているときには、抗生剤などの軟膏や飲み薬を併用します。
クリトリスの肥大
もともと男性の亀頭に当たる場所で、相同器官といいます。そのため、大きくなるとペニスにかなり似たものになります。

大きさは個人差がありますが、最大4~5㎝大きくなるひともいて、性交が可能なひともいます。

一度大きくなったものは、もとに戻りません。

生理が止まる
男性ホルモンにより女性ホルモンを分泌している卵巣機能が低下することにより止まります。

治療開始後、生理が止まり始める時期は、1~12カ月と幅があり個人差があります。

男性ホルモンの種類

海外においては、男性ホルモン治療で使われる薬は多くあり、飲み薬、筋肉注射薬、経皮薬(パッチ、ゲル)、歯肉塗布薬,皮下ペレットなどの様々な剤形があります。

一方、日本国内で製造・販売されている男性ホルモンは、経口薬、注射薬、軟膏しかなく、それほど豊富な種類はありません。

飲み薬

メチルテストステロン(商品名:エナルモン)

腸管から確実に吸収されないことが多く、テストステロンが肝臓で代謝されるために、長期に使用すると肝機能が低下することがあります。

そのため、国内では、男性更年期障害の治療でも使用されていません。

筋肉注射薬

男性更年期障害には、テストステロン・エナント酸エステル(商品名:エナルモンデポー、テストロンデポー、テスチノンデポー)が使われています。

FTMの人たちが使える男性ホルモンもほぼ限られ、テストステロン・エナントエステル酸が適しています。これはデポー製剤といって、注射したらすぐにすべてのホルモンが体内に吸収するのではなく、少しづつ放出されます。

また、国内の規格は2種類しかなく、125㎎と250㎎のみが唯一FTMの男性ホルモン治療に使えるもののみとなります。

テストロンデポー125㎎
約80%以上の人が、約2週間で効果がなくなります。そのため、ほとんどのひとが2週おきに注射します。

2週間後でも男性ホルモンがかなり体内に残っている場合は、3週間おきの注射でも可能性です。

テストロンデポー250㎎
約80%以上の人が、約3週間で効果がなくなります。そのため、ほとんどのひとが3週おきに注射します。

3週間後でも男性ホルモンがかなり体内に残っている場合は、1カ月おきの注射でも可能性です。

軟膏

男性更年期障害に対しての治療の位置付けられている1つに、商品名グローミンがあります。

短期作用型の天然型テストステロン軟膏で、LOH症候群症状に対する有効性、安全性がもちろんのこと、FTMに対しての男性ホルモン治療としても有効性、安全性が確認されています。

その他のホルモン製剤

男性ホルモン治療を開始する前に月経を抑制したいFTM、または、月経を達成していない人で男性ホルモンだけで抑制するFTMには、ゴナドトロピン (GnRH) アゴニストもしくは、黄体ホルモンが使用されます。

ゴナドトロピン (GnRH) アゴニストは、二次性徴がまだ来ていないFTMに使用し、性別がまだはっきりしない性別不合には、二次性徴が進まないように治療することもできます。

副作用とリスク

多血症について

男性ホルモン治療でもっとも重大なリスクは、多血です。これは、血液を作る骨髄でのエリスロポエチンが多く産生されるためです。

治療している~16%に見られますが、ホルモン値が生理的基準を超えず、正常値のひともいます。この場合は、値が正常値にもかかわらず、ホルモンを減らす必要があることもあります。

このような場合は、男性ホルモンのクリームが有効です。

静脈血栓塞栓症について

従来の研究報告によると、静脈血栓塞栓症のリスクが有意に高いとは言えませんが、十分に注意が必要です。

性腺機能低下症の一般男性に対しての男性ホルモン治療においては、静脈血栓塞栓症のリスクは高く、治療開始3か月後に発症することが多いようです。

肝機能低下について

他には、軽度な肝臓機能の低下を認めることがありますが、肝毒性が報告されたことはありません。重大なメンタルの不安定などがあります。

経口薬としてのメチルテストステロンは、重大な肝障害を生じ、悪性腫瘍を生じることもあります。そのため、FTMの男性ホルモン治療には向いていません。

メンタルについて

ホルモン治療は、一般的にメンタルの改善に貢献しますが、高濃度の男性ホルモン投与は、躁鬱などの精神的不安定を来します。

ニキビについて

重大な副作用ではありませんが、ニキビ、毛髪の薄毛、クリトリスの痛みを生じることもあります。軽度なニキビは、男性ホルモンによる反応としては一般的に起こりますが、ひとによっては、重度なニキビに発展します。ニキビの度合いは、次第に減少していくことが一般的です。

毛髪の薄毛について

毛髪の薄毛は、家族性が強い場合には、~50%の頻度に生じます。たいていのFTMにとっては、厄介な男性化の兆候ですが、これを男性化の象徴として考えるFTMもいます。

フィナステリドは、男性だけでなくFTMにも有効ですが、性的副作用もあるために注意が必要です。

クリトリスの痛みについて

頻度はかなり少ないとされますが、クリトリスの痛みを生じる人が~20%いると報告されています。治療開始後6か月以降がピークでその後痛みは減少していきます。

FTMの妊娠・避妊について

男性ホルモン治療中は、妊娠することはないとされますが、治療中に妊娠したという報告もあり、妊娠を排除できません。

妊娠したFTMの16%は、男性ホルモン治療が避妊できると信じていたようです。避妊としては、男性ホルモンは効果的でないことを認識し、信頼性の高い方法で避妊する必要があります。

黄体ホルモンと経口避妊薬は、これらの人たちに有効で、男性ホルモンの効果がなくなるということもありません。

心血管リスクの危険因子

血圧:収縮期、拡張期↑/=

脂質: HDL コレステロール(善玉)↓、トリグリセリド、LDLコレステロール(悪玉)=/↑、総コレステロール量= /↑

BMI、内臓脂肪:↑/=

血球:赤血球↑、ヘマトクリット↑、炎症マーカー↑

インシュリンの感受性:絶食のブドウ糖、絶食のインシュリン↓/=、インシュリンの感受性↓/=