FTMにおいて、手術治療は目的に応じますが、たいてい次のように行われます。

最初に乳房切除(胸オペ)、子宮・卵巣摘出、外性器の形成です。

膣閉鎖、尿道の形成、ペニス形成のために前腕から皮膚を採る準備段階、最後に、1年後、前腕の皮膚を使ってペニス形成を行います。

男性ホルモンによる胸への影響

男性ホルモン治療は、胸のサイズにほとんど影響しないため、最初の手術は、FTMにとっての男性化の胸をつくるために、乳房切除(胸オペ)を行います。

この手術は、FTMにとって男性としてより生活がしやすくなり、結局は希望する性の実生活を兼ねることもでき、次の治療ステップへの準備段階にもなります。

理想的なFTMの胸

FTMにおける胸オペのゴールは、男性としての胸を整容的に作ることです。

このためには、①乳腺組織の摘出、②余分な皮膚の切除、③乳房下溝(アンダーバストのひだ)を消失させること

そして、なにより、胸の傷跡をできるだけ小さくすることです。
※乳房の構造:一番傷跡が小さい方法だと、乳輪辺縁下半周切開して摘出します。正式名称ではありませんが、U字切開法と呼んでいます。
乳房の構造の解剖と切開方法

※乳房下溝は、乳房の一番下に当たり、皮膚が折り返す場所です。女性の乳房の特徴的な部位です。
乳房下溝が胸オペに与える影響
男性の胸には、基本的にこれがありません。ただし、太ってきたりすると男性でも乳房下溝が出てきます。

乳房が小さいひとは、この折り返す場所がなく、FTMでも胸オペする際にこれがなければ、手術方法は乳輪下半周切開(U字切開)が可能で、術後も皮膚のたるみが生じにくいタイプの胸です。

一方、胸が大きく下垂してくると、この乳房下溝はより深くなり、この場合の手術方法は、目立つ大きい傷跡になる傾向があります。

胸オペの手術方法は、今までに、多くの異なった手術手技が紹介されていますが、胸のサイズ、ボリュームではなくて、余剰した皮膚が決め手になると考えている医師が多いでしょう。

最近では、皮膚の弾力性があることが決め手には重要とされ、FTMのひとたちが胸のふくらみを隠すために装着するなべシャツは、胸の皮膚の弾力性をなくしてしまい、より悪化させてしまします。

このこともFTMのひとたちには、理解してもらうことが重要でしょう。すでに知ってはいるけど、ふくらみを隠すためには仕方がないのかもしれません。

胸オペの手術方法

基本的には、
下垂がどの程度あるか?
皮膚に弾力性(張り)があるか?
の2点で手術方法が決まります。

乳房の下垂の程度の分類を説明し、選択される術式を紹介します。

どの程度垂れている胸かを知るには、まず幅の細めの定規を用意します。それを乳房下溝に当て、鏡を見て以下のどれに当てはまるか確認してください。

下垂による術式の違い

胸の下垂の程度は、大きく分けると4つにほぼ分類されます。

下垂度0

乳房下溝に当てても定規は隠れることがありません。

下垂度0は、乳房が小さいことがほとんどですが、ボリュームが多少大きくても、皮膚に弾力性(張り)があれば下垂していないこともあります。

下垂度1

アンダーバストのラインが、乳房下溝で少し隠れます。

U字切開でよいかと思いますが、下垂の程度によって術後に皮膚が余る可能性もあります。

下垂度2

アンダーバストのラインは、完全に隠れます。乳首の位置がアンダーバストのラインと同じライン上または、その上になります。

この胸のタイプでは、ほとんどのひとがU字切開を望みます。ただ、U字切開で行うと必ず皮膚のたるみは生じます。

術後には上半身を鍛えるなどしても、改善しないようであれば、改めて「たるみ取り」をしないといけません。

手術方法は、アンダーバストに長い傷跡または、乳輪の周りをドーナツ状に切除する方法があります。

ドーナツ状に切開するデメリットは、巾着状に縫うので乳輪のまわりに放射状にしわができることです。

下垂度3

アンダーバストのラインは、完全に隠れます。乳首の位置がアンダーバストのラインより下になり、乳首がより下方に向くと重度の下垂です。

この程度になると、かなりの皮膚を切除しなくてはいけなくなり、乳頭・乳輪を移動させるかどうするか決めなければいけません。

手術時に注意していること

下垂度3の場合、傷跡を小さくするのは難しいですが、その他のタイプは、何がなんでも、傷跡は小さくと希望されるなら、とりあえず「U字切開」で行ってもよいでしょう。

術後に余った皮膚をどうするかは、そのときに考えます。

また、初回のオペで脂肪吸引をするかしないかですが、これは海外の医学論文からも多くの医師が、初回の手術ではできるだけ脂肪は残した方がよいとしています。

この理由は、皮下脂肪があることにより、術後、乳房の皮膚が次第にたるまないで馴染んでいく可能性があることです。

初回から皮下脂肪を取ってしまうとたるみやすいひとは、術直後より皮膚にたるみを生じてしまうからです。

皮膚が数か月で馴染んだ時点で、脂肪吸引による修整を行うと、たるみ取りをしなくてもよいこともあります。

当院でも10年前から、胸オペの時は、とくにたるみが出るか出ないか微妙な人は、できるだけ初回のオペでは、皮下脂肪を残すようにしています。

別項目で、その良い例を症例写真で紹介していきます。

胸オペの合併症

血腫

一番頻度が多いです。密閉された乳房内に出血による血液が溜まります。数%の頻度で起こります。

放置しておくと血流が悪くなるため、乳首・乳輪へ悪影響を与えることがあります。

【対処法】血腫の除去手術をします。少量の場合は、吸引のみの場合もあります。

乳頭・乳輪の壊死

血行が悪くなり、組織が腐ってしまうことをいいます。

U字切開ではまれですが、その他の術式では起こる可能性が高くなります。

【対処法】乳頭を手術で作ります(乳頭再建)。

水が溜まる

正式名称は、漿液腫(しょうえきしゅ)といいます。

乳腺摘出後の乳房内の内側同志は、すぐにはくっ付きません。そのため、くっ付きが悪い人は、炎症を起こし、浸出液がたまることがあります。

【対処法】手術ではなく、注射器で数回吸引することで最終的には治ります。

※合併症を生じなかった患者さんでも、術後整容的に修整する頻度が約25%いると報告されています。

海外の胸オペはどのような感じ?

Monstreyらは、胸オペの手術方法は、胸の大きさと皮膚の弾力性によってアルゴリズムに従って決めています。胸の条件は、サイズ、ボリューム、余剰な皮膚の程度、乳輪と乳首の大きさ、位置、そして、皮膚の弾力性で決めています。

手術方法にかかわらず、乳腺摘出切除するときに、すべての皮下脂肪を残すことはとても重要なことです。

十分な皮下脂肪を残すことにより、術後の皮膚の表面の輪郭がきれいになります。

脂肪吸引は、術後に必要時に吸引するのみとし、修正段階で左右差を見て判断するとよい。術後の弾性バストバンドは、4~6週間装着する。

術後の合併症は、血種がもっとも多く、ドレーンの使用、圧迫バンドをしていても生じることがある。その他、乳首の部分的な壊死、膿瘍の形成などがある。小さい血腫や水がたまった場合には、注射器で吸引する。

乳首、乳輪の壊死が起きたときは、上皮化するまで経過観察とする。部分的な乳首の壊死に至ったときには、二次的再建手術を行う。

合併症がない患者さえ、約25%が何かしら、整容的な修正を必要とする。

二次的整容的な修正は、前もって患者とどのようにするか話し合っておくべきです。乳輪の色素が抜けた場合は、タトゥーが有効です。

手術前より、胸のたるみのある皮膚、弾力性のない皮膚の場合、どうしても傷跡が長くなる手術方法になってしまう。

乳がんの患者のレポートからも報告されているように、両側の乳腺を除去したとしても乳がんを発症することもあります。

そのため、FTMの乳房切除(胸オペ)のときには、乳輪・乳首を残しているので、乳がんの発症頻度はゼロではないことも知っておく必要があります。